書名:謙虚なコンサルティング
著者:エドガー・H・シャイン
発行日:2017年6月30日(第1版 第3刷)
発行者:英治出版株式会社
価格:2,000円+税
書評
今回は、「長谷川診断士の読書感想文」第1回ということで、ある意味で今の私のコンサルティング活動のバックボーンを形作ってくれた本をご紹介します。少し長くなりますが、おつきあいください。
著者のシャイン博士はMITスローン経営大学院名誉教授、1928年生まれの91歳。功成り名を遂げた大家ですが、本書の筆致はあくまでも丁寧で本の題名どおりの謙虚な人柄をうかがわせます。
ところで、私が中小企業診断士として、初めてお会いするクライアントの皆さんにお願いしていることがひとつだけあります。それは、「私を先生と呼ばないでください。」ということです。「さすが呼び捨てはちょっと困りますが、せめて長谷川さんでお願いします。」と言って、笑いを誘うのが常です。
もちろん、世の中には私と違い「先生」と呼ばれても何ら違和感がない、誰もが認める卓越したコンサルタントの方が数多くおられることは承知しています。一方で、人格や能力とは関係なく、「先生」と呼ばれること自体にステータスを感じ、自尊心を満足させている人たちも見受けられます。私の場合は、とにかく「先生」と呼ばれること自体が嫌なのです。自分でもうまくその理由を説明できなかったのですが、この本を読んで、ストンと腑に落ちた気がします。
シャイン博士は本書の結びで、謙虚なコンサルティングのエッセンスを次のようにまとめています。この本を最初から読み進めていない方にはややわかりにくい部分がありますので、私なりの意訳を交えて紹介させていただきます。
- クライアントの懸念が何かを突きとめ、その懸念が一連の不安によって増幅されていることを理解する。
- クライアントと支援者が信頼し合い、率直に話ができるようになる。
- そのために個人的な話のできる関係を築く。
- ③の関係を築くためには、「力になりたいという積極的な気持ち」「好奇心」「クライアントとその状況に対する思いやり」を態度で示し、打ち解けた関係を築く。
- その結果、問題が単純明快だとわかったら、支援者は自らが専門家としてかかわるか、あるいは他の専門家を紹介する。
- しかし問題が複雑で厄介だとわかったら、クライアントと支援者は、ひょっとしてすぐには問題は解決できないかもしれないが、解決に向けて前進できるかもしれない、という可能性を信じて実行可能な行動を探る。
- こうした決定はクライアントとコンサルタントが共同で行う必要がある。なぜなら、コンサルタントがクライアント以上にクライアント自身やクライアントが所属する組織の様々な事情を知ることはできないからである。
クライアントの不安な気持ちを受け入れ、互いに信頼し合い、力になりたいという気持ちを伝え、クライアントと共同で行動するコンサルタントにとって、「先生」という尊称ほど不釣り合いな呼び名はありません。このことを新米コンサルタントの私に教えてくれた貴重な本といえます。