郷里の先輩菅義偉さんの首相就任を、心からお祝いいたします。
安倍前首相の7年8か月の治世を裏方として支え続けた菅官房長官が、コロナ禍で混迷を極める今第99代の総理大臣に就かれたことは、ある意味時代の要請だったのかもしれません。
マスコミの論調では、安倍前政権は「やってる感を演出した政権」ということになるそうです。確かに、「アベノミクス3本の矢」「地方創生」「1億総活躍社会」「働き方改革」「全世代型社会保障」とインパクトのある名前の看板政策が続きましたが、今となっては、コロナ対策の一環として打ち出した「アベノマスク」が、本人の意に反して、私たちの一番の印象に残っているのは皮肉です。
「その指摘は、政権ナンバー2といわれた菅官房長官にも当てはまるのでは?」と考える方もいるかもしれませんが、私の意見は違います。
中小企業に例えると、自民党は老舗の同族企業です。安倍前首相が創業者直系のぼんぼん社長(失礼!?)だとすると、菅前官房長官は実力で這い上がってきた生え抜きの専務です。実際に、菅さんは、俗に言う地盤、看板、カバンの無い、しかもどの派閥にも属していない自民党の一国会議員でした。会社を愛してやまないナンバー2の生え抜き専務が第一に考えるのは、意外に聞こえるかもしれませんが、ナンバー1の顔色をうかがって行動することです。なぜなら、ナンバー1とナンバー2の間に軋轢が生じて関係がギクシャクすると、会社経営そのものが成り立たなくなるからです。実際に、安倍政権では「モリ・カケ・桜」と次々と難題が発生し、そのたびに当時の菅官房長官が体を張って火消しに務めました。脇の甘過ぎる安倍さんに対して、苦労人菅さんの面目躍如です。
ところがぼんぼん社長(しつこい?)が病気で急きょ退任することになり、ナンバー2の実力専務に後継社長のお鉢が回ってきたというのが、今回の政権交代の構図です。
菅内閣には早くも「仕事人内閣」としての期待が高まっています。携帯料金の引き下げ、脱ハンコの推進、オンライン診療の恒久化、不妊治療の負担軽減、デジタル庁の新設、と矢継ぎ早に重点施策を打ち出しています。菅社長に例えれば、前任のぼんぼん社長(しつこ過ぎ??)を凌駕する実行力を、同族の経営陣や社員たちに見せつけないといけない場面です。一刻の猶予もなりません。
ところで、そんな菅首相の政権運営に死角はないでしょうか?
現実の会社の社長の役割は、目の前の仕事をこなすだけではありません。社員に会社の現状と課題を丁寧に説明し、社員とともに会社の将来を語り合うことは、社長にしかできない大切な役割です。自分の言うことを聞かないからと言って、社員をいきなり切ったり飛ばしたりするのは論外です。問答無用の荒廃した社風が出来上がってしまいます。そうなれば、有為な人材は会社を去り、おべっか上手は社長にすり寄り、それ以外の社員はだんまりを決め込むでしょう。
実際に私の見聞きした企業の例でも、異論を封じて成果を急いだ場合、短期的に業績が上向くことはあっても、中長期的には組織は確実に衰退します。一国の総理とて同じです。
新しい令和の時代は、中小企業にとっても、そして日本にとっても、リーダーの丁寧なコミュニケーションのあり方が、これまで以上に重要になる時代だと思います。