書名:こうして社員は、やる気を失っていく
著者:松岡 保昌
発行日:2012年12月20日(第9刷)
発行者:日本実業出版社
価格:1,600円(税抜き)
書評
著者は、本書の第1章の最初の項で、「『やる気』は個人の問題ではなく職場の問題」と喝破しています。
仮に、「いや、そうじゃない、あくまで個人の問題だ。それが証拠に、私が口を酸っぱくして注意しても、全く聞こうとしない社員がいるじゃないか。」と考える社長さんがいるとしたら、自らの仕事を半分放棄していることになります。
会社のトップは、体を動かし、頭を動かし、そして人を動かさなければ務まりません。比較的規模の小さな企業の場合は、営業を兼務して社員以上に得意先回りをこなし、銀行の預金残高を見ながら資金繰りに頭を悩ますといった社長も少なくありません。売上無くして会社の存続はあり得ませんし、資金繰りに齟齬をきたして仕入先への支払に遅れが生じたら、重大な信用問題です。それはそれでやむを得ない事情ともいえます。
しかし、もしそのような小さな企業のトップが、現状に満足せず、自社のさらなる成長を強く意識しているのであれば、自分の体と頭以上に、「人を動かす」ことに多くの時間を割く必要があります。
社員の動かし方に気を配り、考え抜き、それを実行できるトップの下で、従業員は最高のパフォーマンスを発揮し、それが会社の業績向上と持続的な成長に繋がることになります。逆に人を動かすことへの配慮が不足しているトップの下では、自ら考え、発言し、それを行動に移すことができる優秀な人材から会社を去ることになるでしょう。会社に残るのは、日々トップの顔色をうかがい、表では素直に指示に従い、裏では愚痴をこぼしている社員のみ、という事態になりかねません。会社にとっても、そして社員にとっても、不幸な結末です。
社長の最大の仕事は、一人ひとりの社員から最高の力を引き出すことである、と本書は教えてくれます。