書名:微笑みを生きる
著者:ティク・ナット・ハン
発行日:2016年2月20日(第4刷)
発行者:春秋社
価格:1,800円(税抜き)
書評
著者は言います。平和な世界を求めるならば、自らの心に平和を求めなければならない。本当にそう思います。古稀を迎えたというのに、些細なことですぐに心がざわついてしまう私は、まだまだ未熟な老人です。例えば「怒りに気づくこと」という一章の中にこんな言葉があります。「気づきを呼びだして、怒りの仲間に入れてみてください。気づきは怒りに気づいても、抑圧したり追いだしたりしないで、ただ見つめているだけです。」「(腹を立てている)問題の根っこは腹を立てているこころのほうですから、私たちはまず自分に戻って、自分のうちがわを調べてみなければなりません。」「消防士のように、まず燃えあがった炎に水をかけなければなりません。家に火をつけた人を探している場合ではないのです。」こう読むと、ベトナム出身の禅僧である著者のティク・ナット・ハン師はいかにも心優しいセラピストのようですが、それにとどません。世界的規模で難民救済活動をする仏教哲学者であり、優れた詩人でもります。同時に、今自分のしていることが子供に理解されなければそれは本物ではない、という信念の持ち主です。だから師は、とても大切だが説明に困難が伴う数々の事象を、易しい例えや詩を用いて人々に伝えることに全身全霊を傾けます。残念ながら師は2022年に95歳で亡くなりました。目新しい専門用語を好んで用い、自分でもきちんと理解できない事柄をしたり顔で解説する専門家と呼ばれる人たちは、私も含めて、師の言葉を肝に銘ずる必要があります。