書評

第7回 食えなんだら食うな

第7回 食えなんだら食うな

書名:食えなんだら食うな

著者:関 大徹

発行日:2020年4月24日(第15刷)

発行者:ごま書房新社

価格:1,800円+税

書評

 今回ご紹介するのは、今から40年ほど前に禅宗のお坊さんが著した本です。永らく絶版になっていたものを昨年復刻するや否や、たちまち15刷を重ねています。

 突然ですが、皆さんは禅宗のお坊さんというとどのような印象を持っていますか?謹厳、節制、粗衣粗食、托鉢、荒修行、そして毎日の参禅。厳しい戒律のもと、内なる仏性を探求して自己を厳しく律する宗教家、と言ったイメージでしょうか。この世に生まれて65年、積年にわたる煩悩のかたまりと化した私には到底マネのできない生き方です。一方で、皆さんが普段接する機会も多いお寺のご住職の中には、そんな俗世間の塵にまみれた私たちと慣れ親しみ、私たちとさほど変わらない精神生活を送っているように見受けられる方もいるようです。それはそれで人間臭くて良いのですが、でもそんなお坊さんに「仏の道とは」「人の道とは」「喝ッ!!」と頭上から説法されても、生来あまのじゃくの私はプイと横を向きたくなります。

 個人的な体験で恐縮なのですが、今を去る30年ほど前、私が現役の地方銀行員であった時分に、お取引先の禅宗のお坊さんとの間でひと悶着あった場面が脳裏をよぎってしまいます。

 前置きが長くなりました。

 この本の著者である関大徹師は明治36年(1904年)生まれ、大正4年(1915年)11歳にて得度、以後曹洞宗にて参禅の道に分け入った、骨の髄からの禅者です。この本は昭和53年(1978年)74歳の時に著しました。

 師は本書でこう唱えます。「食えなんだら食うな」「病なんて死ねば治る」「若者に未来などあるものか」なんとも身も蓋も無い言い方です。

 さらに、こうも主張します。「ガキは大いに叩いてやれ」「家事嫌いの女など叩き出せ」こうなると、もはやパワハラの世界です。(いずれも本書の章題より)

 しかし、よくよく読んでみると、一見乱暴と思われる物言いの背後には、毎日を仏の教えと向き合って生きる禅者として、人間のあるべき姿を倦むことなく問い続ける師の厳しい姿勢があります。今から半世紀近く前の昭和の時代とはいえ、暴論のそしりは端から覚悟のうえです。そのうえで、時には畳みかけるように、また時には腰をかがめて小さな子供を諭すように、師は全人格を動員して自説を唱えます。いわば紙上の説法ですが、私は師の論そのものよりも、ものごとを常に真正面からとらえ、事象の本質に迫ろうとするその姿勢に感服します。良い本に出合うことができました。