書評

第5回 勝者の思考回路

第5回 勝者の思考回路

書名:勝者の思考回路

著者:柴田 陽子

発行日:2020年2月20日(第1刷)

発行者:幻冬舎

価格:1,500円+税

書評

 日本経済新聞の広告欄で、「勝者の思考回路」という書名と人生の勝者のように自信に満ちた笑みを浮かべている著者の写真を見たとき、正直ちょっと引けました。

 「勝者か敗者か」「勝利こそがすべて」「弱肉強食の世界」人間の生き方をこのように単純に区分けする考えは大の苦手です。勝者がいかにも勝者然と、強者がいかにも強者然としている社会ではいろいろな不都合が生じるように思います。例えば安倍一強。「モリ」「カケ」「桜」での自由奔放な公文書管理。全国の高校生に英語の「身の丈受験」を呼びかけて(その後撤回)、「たった一人の検察官」のためには定年を延長。直近では自らの判断で決めた混乱ぎみのコロナウィルス対策があります。国民は「日本を取り戻す(!?)強い意志とリーダーシップを持った在任期間憲政史上最長の首相」が思うままに日本の舵取りをする様子を、毎日ハラハラしながら見ていなければなりません。

 話が大きく横道にそれました。

 なんやかやと思いながらアマゾンで取り寄せたこの本を開くと、私の疑念は的外れでした。

 著者の考える「勝者」とは一体どのような人物でしょうか。著者は勝者を次のように定義します。

 「常に自分自身が高い志を持っていることができる。周りを見れば味方が多く、応援してもらえる。そして、誰かの役に立つという充実感の中で生きている。すなわち『自分』『仲間』『社会』のすべてにおいて『YES』と答えられる人」

 実にポジティブな考えです。さらに著者はこうも言います。

 「『勝者の思考回路』には失敗という出口は用意されていないので、成功するしかないというわけなのです。」

 この言葉だけ切り取ると、ポジティブを通り越して傲岸不遜ともいえそうですが、この本を読み進めるうちに私はいつしか著者の考えに賛同してしまいます。そして、私が中小企業診断士という今の職業に就いてようやくおぼろげに見え始めた理想とする生き方を、私よりかなり年若な彼女がすでに具現していることに対し、尊敬の念と多少の嫉妬すら覚えてしまいます。

 ですが、やはりこの本をお勧めしたいのは、女性たちです。それも、仕事においてもう一段のステップアップを目指したい、仕事と家庭を両立させてより充実した人生を送りたい、社会のためにもっと自分の力を役立てたいと思い悩んでいるすべての女性たちです。反対に、名刺の肩書や役職にこだわり、部下の意見を聞くよりも部下に指示することを好み、自らの内面を見つめる代わりに他者からの評価を気にするといった、想像力の貧困な男性たちには無用な本であると断言できます。

 著者の柴田陽子氏は1971生まれのブランドプロデューサー。(恥ずかしいのですが、ブランドプロデューサーという職業があることをこの本で初めて知りました。)大学卒業後、外食企業の新規業態開発や、化粧品会社の商品開発などを経て、柴田陽子事務所を設立。「渋谷ヒカリエ」や「グランツリー武蔵小杉」、「パレスホテル東京7料飲施設」といった著名な施設(たぶん)のプロデュースやブランディングを手掛けています。また、理想の洋服づくりを目指して自らアパレルブランドを立ち上げたり、直営の飲食店も経営しています。マルチな才能に恵まれたスーパーレディといえそうです。