「どんぶり勘定」は誰もが知っている慣用句です。手元の辞書を引いてみると、細かく収支を計算せずに、あるに任せて無計画にお金を使うこととあります。
政府の肝いりで大々的に推進されたコロナ融資、元本返済ゼロ利息支払ゼロのいわゆる「ゼロゼロ融資」は、企業倒産の回避と失業の抑制という面で大きな役割を果たしましたが、ここにきて負の側面が表面化しています。
コロナ融資を借りた企業には大まかに三つの類型があるように思われます。
第一の類型は、コロナ禍の影響を直接受けて売上が激減した企業です。宿泊業や飲食業といった業種の企業がこれに当たります。これらの企業では、新型コロナウィルスの第5類移行により売上はコロナ禍以前に戻ったものの、融資の返済が資金繰りに大きく影響し、さらなる収益強化策が求められています。
第二の類型は、コロナ禍による売上減少以前の問題として、過去から引きずっている経営不振により資金繰りに支障をきたしていた企業です。不振の根本原因を追究することなく、天の恵みかのようにコロナ融資にすがった企業が多く存在します。コロナ融資はこうした企業が倒産を回避するための時間稼ぎの役割を果たしましたが、根本的な経営体質改善の先送りを助長した面も否定できません。
そして最後の類型は、コロナ禍の影響そのものは軽微なものの、金融機関に勧められるまま本来借りる必要のないゼロゼロ融資を受け、せっかく借りたのだから何かしなくてはという単純な動機から、確かな計画もなく新事業に進出して、結果として失敗を招いている企業です。
凡庸な経営者はどうお金を借りるかを考えるのに対し、優れた経営者は、借りる前にお金をどう返すかを考えます。借りたお金は必ず返さなければならないからです。
私見ですが、コロナ融資の最大の負の遺産は、「借りたお金は必ず返す」という経営者として当然の規範意識を希薄化させたことにあります。本来は融資の審査を通して企業の「どんぶり勘定」的経営体質の改善を促すべき金融機関が、「どんぶり勘定」をそのまま容認したケースが目立ちます。緊急事態における特別措置であることを差し引いても、今後大いに検証すべき反省点です。
ところで、このコラムを執筆するにあたり調べたところ、「どんぶり勘定」の「どんぶり」は、その昔職人などが身に着けた腹掛けの前部にある物入れのことで、職人らが無造作に腹掛けに手を入れてお金を出し入れしたことから「どんぶり勘定」と呼ぶようになったことを知りました。この歳になるまで天丼やかつ丼の「どんぶり鉢」のことだと思っていた私は、恥じ入るばかりです。
言葉の由来を知って、昔の職人たちが、「どんぶり」から小銭を出して日々の用を足している風景を思い描くことができます。
このように、「どんぶり勘定」はつつましい庶民がお金を出し入れする様を表わした言葉に過ぎませんが、企業経営となると話は別です。確たる計画も無くお金を借り、細かな収支を計算しないままお金を使う「どんぶり勘定」経営では、複雑で変化の激しいこれからの時代を生き抜いていくことはできません。