書評

第8回 ロケット・ササキ

第8回 ロケット・ササキ

書名:ロケット・ササキ

著者:大西 康之

発行日:2019年4月1日(第1刷)

発行者:新潮社

価格:520円+税

書評

 皆さんはロケット・ササキこと伝説の技術者佐々木正のことをご存知でしょうか?

 シャープの技術トップとして専務、副社長を務め、スマートフォンやパソコンに入っている「MOS(金属酸化膜半導体)」や「液晶ディスプレー」「太陽電池」を世に送り出しました。

 実を言うと、私はこの本を手に取るまで佐々木正のことは私は全く知りませんでした。昨年の5月、知人の大の読書家の社長さんが私にこの本を薦めてくれたのですが、読み始めるともう止まりません。1日で読み終えてしまいました。

 佐々木正は大正4年(1915年)島根県で生を受けました。彼が生まれてすぐに台湾で商売を始めた父のもとで育ちました。台北高校から京都帝国大学に進学した彼は、当時は傍流の弱電を専攻し、昭和13年(1938年)に卒業した後は、戦時体制のもとで真空管の製造に没頭します。さらには、軍の命令で、今で言えば電子レンジの原理を応用した対人兵器の開発に従事し、いよいよ死刑囚を人体実験にかけようという間際に敗戦となります。間一髪で科学者としての一線を越えずに済んだ経験は、人を殺すための技術ではなく人に幸せにする技術を作り出す、という彼のその後の行動規範を形作ります。(今この部分を読み返すと、「日本学術会議」発足の問題に行き当たります。)

 戦後の彼は、電子立国ニッポンの最前線を疾走する技術者として世界を駆け回ります。彼の発想についていくには戦闘機では遅い、ロケットでなくては、ということでアメリカのカウンターパートたちが付けたニックネームが「ロケット・ササキ」です。

 彼が親身になって支援した人たちには、若き日のスティーブ・ジョブス(故人。アップルの創業者)や李健熙(イ・ゴンヒ、サムスングループ会長。つい先日78歳で亡くなりました。)、そして日本ではソフトバンクグループの孫正義がいます。

 実は、1年前に読み終えた本を今回の読書感想文に取り上げるのは、私の親しい知人との会話がきっかけでした。彼はシャープの社員で、先日秋田に帰省した際にともに食事をしたのですが、そこで彼の口から「ロケット・ササキ」の名前が出たのです。「もちろん知っている。」と答えた時の私はかなりのド・ヤ・顔・だったに違いありません。

 その知人から、メールが届いたので紹介します。

 古い名刺ホルダーを探しましたら、佐々木正さんの名刺が出てきました。佐々木さんの人柄があらわれている、とてもキュートな名刺です。

 シャープの人たちは、佐々木さんの事を、親しみと敬意をこめて、”ドクター”と呼んでおりました。90歳を過ぎても、世界の知性と言われる人達に会いに、世界を飛び回っておられました。

キュートな名刺

 ロケット・ササキこと佐々木正は2018年1月に亡くなりました。享年102歳。現役を引退した後に電子立国ニッポンの衰退とシャープの凋落を目の当たりにすることとなった彼は、どのような思いで天国に旅立ったのでしょうか。